はじめまして。Kyashでメッセージング、コミュニケーションを担当しているスズと言います。アドベントカレンダーの1記事を執筆することになったので、ここには、自分の仕事、メッセージング、ストーリーテリングにまつわる散文を書き残したいと思います。
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「メッセージング」「コミュニケーション」って?
さて、僕が担当している「メッセージング」「コミュニケーション」という単語は、多くの人にとって、今ひとつ馴染みのない、ピンとこないものだと思います。
これは、短く表すなら「言葉の力を使って、プロダクトやサービス、ビジネス価値を最大化すること」と言えると思います。
自分では「ストーリーテリング」という言葉が好きで、「ストーリーテリングをする人」と自分自身のことを定義していますが、もっと平たい表現としては、「文言屋さん」という言い方もできるかもしれません。
言葉の力は偉大です。この言葉によって、描き出す世界の像が大きく変わる。そして、伝わることも、伝わり方も大きく変わります。
「言葉で「伝えること、」「伝わること」を考える」、が仕事なので、「メッセージング」「コミュニケーション」の担当を名乗っているわけですね。
こういう人生もある
僕自身のキャリアを振り返っても、一貫して「言葉づくり」「物語づくり」を仕事にしてきました。世間の職種名としては、編集者、ライター、コピーライター、(そして紙芝居師)にカテゴライズされます。
どれも言葉で人とコミュニケーションを取ろうとする仕事ですね。
具体的には、次のような感じです。
編集者・ライターとしては、「MUSIC GUIDE」「週刊読売(休刊)」「AXIS」「EAT」「Esquire Japan」「GQ Japan」「Sotokoto」「日経流通新聞」「ほぼ日」「Ping Mag Make」「ギネス世界記録」「FOUND」などで記事づくりをしてきました。
コピーライターとしては、食品販売や金融商品のブランディング、外資系ホテルのためのブランディング&マーケティング資料、外資系自動車メーカーのカタログ作成、インテリア家具のカタログ&広告など、こちらもジャンル構わず色々な種類の仕事で謳い文句をつづってきました。
紙芝居師はかなり特殊な活動ではありますが、長年、定期実演を行ってきました。今も、台東区下町風俗資料館、国立昭和館で日本の大衆文化として広く愛されていた街頭紙芝居の伝承係を担っています。
送り手と受け手が1つの空間でストーリーをつくる。その点が演じ手としての紙芝居の醍醐味ですね。
記事を書いたり、メディアそのものをつくったり、何かを売るための言葉を考えたり、ブランドの物語をひねり出したり…(ときに紙芝居をしたり…)。
扱ってきたものは、多岐にわたるのですが、基本的には「ストーリーテリングの活動」をただひたすらやってきた、というのが実感として頭に浮かぶところです。
テックカンパニーのスタッフにとっては珍しいキャリアだと思いますが、まあ、こういう人生もあるわけですね。
Kyash x ストーリーって、何のこっちゃ
ところで、自分がKyashに参画しようと思い、ここに魅力を感じたのは、Kyashにヴィジョンがあったからです。ここを起点に世の中を騒がせるストーリーを紡ぎ出せて、社会が変わっていったら楽しいなと思ったのです。
Kyashのヴィジョンは壮大です。何しろ、「新しい価値移動のインフラを創るつくる」「新しいお金の文化を創るつくる」ですからね。
「新しい価値移動のインフラ?」「新しいお金の文化?」 このパッと耳にしただけでは、「はて、何のことだろか?」と思えることがあるのが「いいな」と思ったのです。
Kyash x ストーリーで何が起こるのだろう?と考えたら、ゾクゾクとするものがあったのです。
なぜかと言うと、「理解できないこと」こそ「ストーリー」というものが役に立つ、「ストーリーテリングの出番」だと思うからです。
散文詩がストーリーになるマジック
「理解できない情報」が「少し理解できるストーリー」になるデモンストレーションを書いてみます。
ちょっと、こんな情報を頭に浮かべてみてください。
母が家を出て行った。
ちょうどその3時間後、弟が帰ってきた。
弟は、無言で部屋へと向かう。
弟の顔を覗くと、弟は眼からは涙を流しているようだった。
追うようにして、外から母のすすり泣くような声が聞こえてきた。
ちょうどそのとき、野良犬の遠吠えが空に響き渡った。
意味わかりませんよね? きっと、これだけだと散文詩のように感じると思います。意味不明感、理解できない印象があるはずです。
では、次のような情報だとどうでしょう。
母が家を出て行った。
玄関で母が残したセリフは、「あなたの弟は、本当はあなたの弟じゃないの。今から、本当のことを言うために、カフェで弟に会ってくる」という驚きの言葉だった。
ちょうどその3時間後、弟が帰ってきた。
弟は、無言で部屋へと向かう。
「お前、お母さんに会ってたんだろ? お母さん、お前に本当のこと話すと言って出てったんだ」
弟の顔を覗くと、弟は眼からは涙を流しているようだった。
「兄ちゃん、お母さんが言うには、僕はお兄ちゃんとはお父さんが違うんだって……」
そのとき、外から母のすすり泣くような声が聞こえてきた。
人は、たとえどんなに人を愛そうとも、その愛が罪になるときがある。昔の罪を現在にも未来にも背負って生きていかなければいけない。もし人間が、野生の生き物なら、こんな重苦しい悲しみは生まれないはずなのに。私には、それぞれふたりの悔しさがよくわかった。
ちょうどそのとき、野良犬の遠吠えが空に響き渡った。
こうなると、急に「情報」が「ストーリー」になってるな、と感じると思います。とても暗い話になってしまいましたが(笑)。
基本的なプロットは同じであっても、ストーリーとして感じられるか、感じられないか?は大きく変わる。ストーリー的な要素を散りばめるだけで、グッとストーリーっぽくなったはずです。
これは、どんなストーリー的要素を散りばめるかによってもガラリと雰囲気を変えてしまいます。
たとえば、次のような情報だとどうなるかというと…。
母が家を出て行った。
母は出ていく時に、「今日は、弟と全日本女子プロレスを観に行くの。すごいんだから。私、大好き」と不思議なことを言って出ていった。
ちょうどその3時間後、弟が帰ってきた。
「ゼェゼェゼェ」。弟は息切れをしているようだ。しかし…。
弟は、無言で部屋へと向かう。
「おい、おい。どうしたんだよ。そんなに息を切らせちゃってさ」、私は弟を引き止めようと声を掛けた。
弟の顔を覗くと、弟は眼からは涙を流しているようだった。
「お、お母さんが、会場で突然、服を脱いだら、レスラーの格好を仕込んでいて、リングに上がったんだ。あの人、僕たちに内緒で、シニア女子プロレスラー部門で急にデビューしやがったんだ!」
追うようにして、外から母のすすり泣くような声が聞こえてきた。
いや、すすり泣きではない。すすり笑いの声だった。そして、「勝った!私は勝った!デビュー戦で勝ったのよ!ヒッヒッヒッッヒ。私にかかれば、こんな野良犬だって、木っ端微塵なのさ」、そんな雄叫びにも似た声が轟く。
「ま、まさか!」弟と私は眼を合わせた。
ちょうどそのとき、野良犬の遠吠えが空に響き渡った。
今度は、急にホラーコメディーのようなニュアンスのストーリーになったと思います。
ここでも、「理解しづらいもの」を「理解できるもの」へと変えるためにストーリー的な要素を散りばめてストーリー化してみました。
でも、その散りばめ方の趣向を、さっきのお話とは変えてみました。これによって、全く異なるストーリーになるわけです。魔法のごとくに(笑)。
ストーリーテリングとは、「伝わるコミュニケーション」のこと
つまり、ストーリーテリングというのは、言い方を変えると、「伝えるコミュニケーション」「伝わるコミュニケーション」ということができると思います。
翻訳ということもできると思います。人間の脳が、受け取りやすい形に直して、メッセージを伝える。これが「ストーリー」の役割なのではないか?と僕は考えています。(ただ、その制作のプロセスで翻訳者の意訳は必ず発生してしまいますが)
ビジネスというフィールドで「ストーリー」を巧みに使うのは、口で言うほど簡単なことではないと思うのですが、活かすことができたら、本当に色々なことが躍動する、意味を持ってくるのではないだろうか?
と僕はそう信じているのです。(ちなみに、「チームづくり」や「コミュニティづくり」に関しても「ストーリーテリング」は有効に機能すると思います。そして、大きな興味を持っていたりします)
で、その大きな1つとして、Kyashのヴィジョン「新しい価値移動のインフラを創る」「新しいお金の文化を創る」は、本質的な部分でのストーリー、意義を引き出す価値が大きいのでは?と思ったのです。メッセージング、ストーリーテリングの醍醐味がある、と。
来たる、新しいKyashのストーリー
さて、最後になりましたが、仕事の話を一つ告知させてください。
Kyashの新しいカード、Kyash Cardの発表のメッセージングは、僕とチームのみんなが話し合いながら開発したものです。興味があったら、コチラをのぞいてみてください。
そして、次の一歩、次のストーリー、第2弾もみんなで開発中なので、楽しみに待ってもらえたら嬉しい限りです。(第1弾は、ティザーでしたので、「ストーリー?あんな言葉少ないのに…。」と感じる読者もいるかもしれませんが、行間や空白をつくるのも、ストーリーだったりします。)
どう展開するか?どんなストーリーが紡がれるのか?ジワリジワリと作っております。早くみなさんに観てもらいたいなあ。でも恐らく、もうすぐ発表できるはず。これで、「プロダクト、サービス、ビジネスを最大化」できるのか?
そこは、みなさんに率直に評価いただきたいポイントですね。Kyashが「あの会社、あそこのプロダクトには、いつもストーリーが感じられるんだよね!」と言ってもらえるようになったら、それほど嬉しいことはない、そんなことを胸に想っております。
さてはて、結局、 散文調になってしまいましたが、メッセージング、ストーリーテリングについて、つらつらと書かせてもらいました。また、どこかでお会いしましょう。
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