これは Kyash Advent Calendar 2025 24日目の記事です。
Kyash COO の鳥越です*1。いよいよ年の瀬も押し詰まってきましたね。クリスマスが終わったら、あっという間に新年を迎えます。
今年は「年男(巳年)」ということもあって、いろんな変化を楽しもうと強く意識しながら過ごしてきた一年間でした。
仕事でのグロースマインドセットはもとより、プライベートでも、クラシックロードバイクの祭典「Eroica Japan」に古いクロモリ・ピナレロで出走したこと、15 年近く乗ってきた空冷ポルシェ 911(Type964)を手放し 1963 年式 356B Super 90 に乗り換えてチャリティクラシックカーのイベント「GO! GO! ラリー in 東北」に妻と一緒に参加したこと、司馬遼太郎さんの「街道をゆく(全 43 巻)」読破を目指して隙間時間を見つけながら読み進めたことなどなど、これまでのライフワークにはなかったようなイベントにも積極的に取り組んできました。
Kyash には 2024 年 7 月に入社して、早いもので 1 年 6 ヶ月が経過しました。これまで、多くの経営課題に全力で取り組んできたので、あっという間でしたが、最近は Kyash の事業成長ステージに合わせて、顧客視点でのマーケティング観点からゼロベース思考をあれこれと思い巡らしています。
というのは、Kyash が提供している金融サービスはプロダクトの機能性やアプリの操作性などは、レッドオーシャンのなかで競合他社が提供している金融サービスと比較しても決して劣後していない、むしろ競争優位性があるにも関わらず、狙ったようにはビジネスがグロース(顧客基盤が拡張)していかないのです(汗。
収益性の改善を含め、未来に向かって確実な成長軌道を描いていますが、成長の踊り場に迷い込んでいるようにも感じています。この迷走の根本原因には、いくつかの解決すべき構造的な問題があると思っていますが、ところで、ここでみなさんに質問です。次の名言を言ったのは誰か、知っていますか?
「いくら素晴らしいものを作っても、伝えなければ、ないのと同じ。」
この名言の発信者 は、他にも以下のようなことも表明しています。
「未来を予測する最良の方法は、それを創造することだ。」
「本当に好きなことを見つけるまで、妥協してはいけない。」
「イノベーションはリーダーと追従者を分ける。」
「あなたの時間は限られている。」
「シンプルさこそが究極の洗練だ。」
誰だか分かりましたか?
最後のヒントは、
「Stay hungry, stay foolish(ハングリーであれ、愚かであれ)」
そう、答えは、スティーブ・ジョブズ。2005 年のスタンフォード大学の卒業式スピーチで 述べたフレーズで、心に響く印象的な言葉としてとても有名ですよね。
スティーブ・ジョブズの「いくら素晴らしいものを作っても、伝えなければ、ないのと同じ」という考え方は、アップルのマーケティング哲学の核心を非常に上手く表現していると思っています。
マーケティング観点から少し掘り下げてみますと、
まず、「伝える」とは価値を「認識」させること
マーケティングの本質は、単なる宣伝ではなくて、ユーザーに対して本質的な提供価値を理解させて、共感を生むこと。どんなに革新的で優れたプロダクトであっても、ユーザーがその提供価値を感じ取れない(腹落ちしない)かぎり、マーケットには存在しないも同然です。
ジョブズは、アップルのプロダクトを「テクノロジーの結晶」ではなく「ユーザーの感情に訴える体験」として、「伝える」ことをとても重視したと言われています。正しく認識できなければ、うまく伝えることはできない。
次に、「プロダクト・アウト」と「マーケット・イン」
ジョブズは、よく「顧客に何が欲しいかを聞いても、顧客にはわからない」と語っていたと言われています。
マーケット・インではなく、プロダクト・アウトの立場に立ちながらも、プロダクトをどう意味付けで顧客に対して、どう伝えるかについて徹底してこだわったと言われています。つまり、「つくる」と「伝える」は対立するものではなく、優れたプロダクトを、ユーザーの心に届く物語(ストーリー)に変換する行為こそがマーケティングなのだという基本的な考えに依拠しています。
金融サービスでは業法・規制等の影響もあって、差別化が難しく、一般的にはプロダクト・アウト的発想でのアプローチはうまくいかないのですが、我が国での金融サービスのプロダクト・アウトの成功事例としては、直近では QR コード決済最大手 PayPay の成功事例があります。
事業構想段階で行なった QR コード決済ニーズに対するマーケット調査では、その時点ではアイディアが浸透していなかった QR コード決済に対するユーザーの利用意向は確認できなかったようですが、圧倒的な熱量と資金力とを背景に、日本において QR コード決済市場を創出したことは、みなさんもよくご存知だと思います。
ただ、金融行政や経営資源等の制約もあって、金融サービスにおいては、Kyash を含めて、ユーザーのペインポイントに焦点を当てたデータ分析(N1 分析)を起点としたマーケット・インによるアプローチが一般的であり、成功の秘訣だとも言われています。
そして、ストーリーテリング
ユーザーの心に届く物語(ストーリー)として、アップルの広告宣伝・プロモーションやプレゼンテーションは、スペックや機能をグタグタと並べるのではなく、「そのプロダクトがあなたの人生をどう変えるか」について、ユーザーの共感を得られるような形で、繰り返し・繰り返しブラさずに一貫して語られています。iPod の「1,000 songs in your pocket」や Mac の「Think different」は、プロダクトの提供価値をユーザーに対し直感的に伝えるストーリーの象徴とも言えます。
つまり、ジョブズの言葉には、「伝える」ことは物語(ストーリー)を設計することといった意味が含まれていると思います。
最後に、マーケティング戦略を組み立てる上での示唆として
大量消費時代のマス・マーケティングが終焉し、N1 分析を起点とした One to One マーケティングが中心となった現在においても、ジョブズが強い信念から拘ってきたマーケティングに対する基本的な考え方は変わらないと思っています。プロダクト・アウト的な視点からの製品・商品の完成度よりも、「どのように伝えるか」、すなわち、ユーザーとのコミュニケーション設計が、ユーザー視点からの体験設計、ユーザーに対する提供価値、さらにはブランド価値自体をも左右するようになったという考えです。
つまり、ジョブズの「伝える」ことへの哲学は、Kyash を含めたスタートアップや大企業にも通じる、普遍的なメッセージだと思っています。テクノロジーも、デザインも、プロダクトも、最終的には「伝える力」によって、顧客への提供価値が具現化していくと考えています。
ただし、伝える力があっても、スタートアップと大企業とでは闘い方は、まったく違っています。Kyash が PayPay の成功事例を真似て闘っても、絶対に勝てない。大企業のように圧倒的な軍資金を含めた経営資源もなければ、許容される時間もない。そんな状況で誰かの真似事をしても、人財は流失し資金も尽きて潰れてしまう。
京セラの稲盛和夫さんが創業期の心得として語っていらっしゃるように、「手持ちの手段で、許容できる損失の範囲内で、小さく早く行動する」といった持たざる者が生き残るための生存戦略が必要になってきます。市場調査に頼っても答えは出てこない。ユーザーのペインポイントを強く意識しながら、Kyash としての強み、Kyash がターゲットとすべき顧客の再定義、そしてビジネスリテラシーから生まれる「直感」を信じて、レードオーシャンで大企業とはガチンコ勝負せず、Kyash としてのマーケティング戦略を組み立て・実装することが生存条件になってくる。
2026 年の干支は、「丙午(ひのえうま)」。丙午は、躍動する「午」に陰陽五行説の火性の陽(火の力)「丙」が重なることで、情熱や勢いが高まり太陽のようにエネルギーが満ち溢れる一年になると昔から言い伝えられています。Kyash にとっても大きく飛躍するチャンスですので、新しいこと、これまで諦めていたことなどに対しても失敗を恐れず果敢にチャレンジしながら、「つくる」だけでなく「伝える」ことにも注力して、しっかりと成長軌道に乗って、さらなる高みへとリフトアップしていきたい。
ジョブズの「Stay hungry, stay foolish」は、挑戦し続ける姿勢そのものに対する哲学。
現状に満足せず、愚直に、そして果敢に、未知に向かって動く。好奇心を羅針盤に、探索と探求による「非連続な変化を楽しむ」ことを原動力に、Kyash 一丸となって、みんなで日々前進していきましょう!
最後に、マーケティング講義では、繰り返し・繰り返し出てくるピータードラッカの 5 つの問いを記して、ぼくのアドベントカレンダーは終わりたいと思います。
ドラッカーの 5 つの問い
「われわれの使命は何か」
「われわれの顧客は誰か」
「顧客にとっての価値は何か」
「われわれにとっての成果は何か」
「われわれの計画は何か」
みなさん、ハッピー・クリスマス、そして、どうぞ良いお年をお迎えください。
*1:id:konifar が代理で公開しています