KyashのBtoB新事業 - 前編 - 法人送金の課題と我々が提供する価値について

株式会社Kyash法人送金事業部でリードエンジニアをしている北山です。

Kyashでは2015年の創業以来、支払いやお金の管理を簡単にするスマホアプリとそれに紐づくVisaプリペイドカードの提供を行ってきました。
表向きにはKyash = スマホアプリの会社としての顔が強いと思います。 しかし、実は2021年からKyashアプリ向けの企業送金ビジネスを行なっており、2024年1月からは銀行口座向けの送金ビジネスを開始していました。(以後、法人送金サービスと呼称します) 今回はサービス立ち上げ初期からエンジニアとして働く私が法人送金サービスの今をお伝えします。

法人送金サービス概要

法人送金サービスでは顧客企業に対して、Kyashアプリへの送金と銀行口座への送金の2種類を提供しています。

どちらの送金指示もAPIまたはWeb上の管理画面を通じて行うことが可能です。 そのため、顧客企業の事業規模やユースケースに沿った送金体験を提供できます。 今回は銀行口座への送金(法人送金)に絞って、その課題と我々が提供する価値について説明します。

法人送金の課題と価値

なぜ企業が直接行える銀行送金をわざわざ代行するこのようなビジネスが成り立つのか? そこには銀行の送金手数料が関わってきます。 法人が銀行振込を行う際、どの銀行口座に振込を行うかによって手数料が変わります。 法人の送金元銀行と同じ銀行に送金する場合は、一般的に安い送金手数料で済みます。しかし、他の銀行に送金する場合は全国銀行資金決済ネットワークと呼ばれるシステムとの連携が必要となるため、その分銀行でもコストがかかり、一般的に高い送金手数料が必要となります。 これらの送金手数料は送金元である法人側が負担しています。

中には複数の銀行と契約を結び、振込先によって送金元銀行を選択して送金手数料を抑えようとしている企業もあります。

このような企業が直接銀行を利用する振込業務には以下の課題があります。

  • 年間の送金に数百万、数千万円という規模間で手数料がかかっている。
  • 振込先銀行が多くなると、それぞれの銀行のフォーマットに合わせたファイルを用意する必要があるなど、各銀行ごとにオペレーションを変える必要が出てくる。
  • 目視による確認など業務負荷や人為的ミスのリスクが大きい。
  • 銀行ごとに手数料が異なるので送金手数料の総額計算が煩雑

こういった課題を解決するのが弊社の法人送金サービスです。(LPサイト)

  • 初期費用0円
  • 振込手数料の削減
    • 送金する分のみ手数料が発生
  • 原則24時間365日、即時送金可能
    • 銀行が稼働していない土日祝/夜間も対応可能
  • 使いやすい管理画面
    • シンプルなデザイン
    • 予約送金や承認機能
    • 人為的なミスを防ぐバリデーション機能
  • 選べる送金フォーマット
    • APIかファイルアップロードから選択可能
    • 全銀フォーマットと呼ばれる銀行送金で使われる従来のフォーマットにも対応

なぜ送金コストを下げられるのか

法人送金サービスを導入していただくことで、我々は送金件数をまとめて、スケールさせることができます。 我々は、多数の送金件数を確保したい銀行に対して1件あたりの送金単価を下げる交渉をすることができます。 こうして、送金件数を上げつつ送金手数料を下げてビジネスをスケールすることができるのです。

送金1件あたりの利益は数十円と微々たるものですが、法人送金というのは毎月数十万件と安定して行われることから長い目で見ると安定した利益となっていきます。

また、スケールメリット以外にも送金原価を低減できる仕組みを合わせて構築しており(詳しくは企業秘密)、これによって我々は顧客企業が各銀行へ払う振込手数料よりも安い値段で銀行振込のサービスを提供できています。

techとしての面白さ

特にスタートアップフェーズでは、ビジネスの成長スピードに開発体制が追いつかない場面も多く、「限られた人数・時間で、いかに堅牢で伸びしろのあるシステムをつくるか」という意思決定が常に求められます。

たとえば、送金のような金融系の機能では、障害を絶対に起こしてはいけない一方で、新しいビジネス要件や外部連携への対応が日々生まれてきます。このような環境下では、アーキテクチャや設計の「ちょうどいい抽象化」が非常に重要になります。仕様の粒度や責務の切り方、エラーハンドリングの基準ひとつ取っても、プロダクトの将来性に大きな差が出るため、技術的な判断の醍醐味があります。

また、顧客からのフィードバックがダイレクトに届く点も、このプロダクトの面白さのひとつです。現場のニーズを知ることができる一方、それらをすべて鵜呑みにすると機能が肥大化し、結果として使いづらいサービスになってしまいます。そこで我々は、個別の要望の裏にある共通の課題を読み解き、それを汎用的な仕様としてどう落とし込むかをチームで議論します。この「抽象化と統合」のプロセスがとてもクリエイティブで、エンジニアリングとしてやりがいを感じる部分です。

このように、法人送金サービスの開発は、「安定性」と「変化への対応」、「要望対応」と「プロダクトとしての一貫性」といった相反する価値を技術でどう両立させるかを日々考えながら取り組む仕事です。単にコードを書くこと以上に、技術の使い方そのものを問われる、奥深い領域だと感じています。

小さなチームだからこその意思決定スピードと裁量

当社の開発チームは少数精鋭で、1人ひとりの裁量が大きいのが特徴です。システムの仕様検討から技術選定、実装、リリース、運用までを一気通貫で担当するため、「プロダクトを作っている」という実感を強く持てます。

また、ビジネスサイドとの距離も近く、プロダクトに関する議論が日常的に行われています。ユーザーの声や数字を見ながら改善サイクルを回せるのも、エンジニアにとって大きな魅力です。

最後に

法人向けのサービスというと「堅い」「地味」と思われがちかもしれませんが、限られたリソースの中で、堅牢性と柔軟性のバランスを取りながらプロダクトを磨いていくという点で、むしろエンジニアリングの本質が問われる領域だと感じています。 「顧客の課題に真摯に向き合いながら、技術で価値を届けたい」という方にとっては、きっと面白い環境だと思います。

法人送金事業に興味のある方は、こにふぁーまたは北山のXアカウントにDMをいただくか ↓こちらからご応募ください。感想もお待ちしています。 https://herp.careers/v1/kyash/Zjvd6Kfo-h-i

後編では法人送金事業の未来像と求められるエンジニアの能力について書きます。 お楽しみに!

ランチ手当をKyashで支給する運用を始めました

Kyash では 2024年12月 からランチ手当の支給を始めました。

物理出社を必須にしているわけではありませんが、出社するならメンバー同士でコミュニケーションを取ってもらいたいというメッセージを込めて、10,000円/月を上限として出社1回につきランチ手当2,000円を支給しています。

支給は翌月にKyashの送金で実行しています。 自分たちのプロダクトで福利厚生の制度を運用できる のはなかなか体験がよいので紹介したいと思います。

続きを読む

ヴィジョンの真価

この記事は Kyash Advent Calendar 2024 の25日目の記事です。今年もKyashのアドベントカレンダーの締めくくりとして、この場を借りてエントリーさせていただきます。今回のテーマは、Kyashが創業当初から大切にしているヴィジョンについてです。

ヴィジョンとは何なのか

よく「あの起業家はヴィジョナリーだ」や「この会社にはヴィジョンがある」などと表現されることがあります。ヴィジョンがあることと、良いプロダクトや事業を作ることとはどのような関係があるのでしょうか。ヴィジョンは単なる理念やスローガンではなく、会社やプロダクトの方向性を形作る羅針盤であると思っています。私たちが日々の挑戦を通じて進むべき道を示すものです。いろんな文献などを見ても、ここまではよく書かれていると思います。ただし、これもいまいち抽象的でわかりづらいですね。 自分の解釈では、どのような世の中に貢献したいのか、どのように利用者の暮らしを良くできるのか、ということに対するスタンスだと考えています。 英語にはなりますが、この記事が自分は一番しっくりきています。 チームのベクトルともいうべきKyashのヴィジョンについてもう少し詳しく書いていきたいと思います。

Kyashのヴィジョン

Kyashのヴィジョンは、「新しいお金の文化を創る」です。 ミッションである「価値移動のインフラを創る」ことによって、お金と人間の関係を取り戻し、 新しい文化 ≒「常識」が生まれてくるところに貢献したい。 Kyashのミッションや創り出そうとしているモノについては以下の過去エントリーをご参照ください。

Kyashは個人向け(C事業)と法人向け(B事業)があります。 ここでは、創業来からコミットしている個人向け事業について、この「新しいお金の文化を創る」が意味するものを書いていきます。 これは遠大なヴィジョンですが、まず実現していきたいのは「人びとの経済的な豊かさに貢献する」ことです。英語では、「Contributing to users' financial well-being」になります。 日本では失われたX十年や給料が上がらない報道などをよく目にしますが、Kyashのサービスで利用者の所得を直接的に増やすことはできません。 Kyashは、利用者の日々のお金をコントロールしたり、アクセスしやすくすることを通じて、豊かさの実感に貢献したいと考えています。 興味深いことに、アメリカでは、このFinancial Well-beingを測る指標として、政府機関であるCFPB (Consumer Financial Protection Bureau)がFinancial Well-being Scoreというものを出しています。

https://www.consumerfinance.gov/consumer-tools/educator-tools/financial-well-being-resources/measure-and-score/

さらにこのスコアの要素が開示されており、これをKyashのビジョンを構成するものとして全社会議でも共有したことがあります。

Financial Well-beingの構成要素

ポイントは、利用者に「実感がある」ということ。「状態である」ことと、「実感があること」は似て非なるもので、 Kyashのプロダクト体験を設計する上で重要な視点になっています。

※ Kyashのヴィジョンに興味を持っていただいた方は、こちらのVision Deckもぜひご覧ください。

ヴィジョンの実現に向けて

上記で示した利用者の豊かさの実感に貢献するためには、決済領域のみでは役不足です。 Kyashは、自社のサービススコープを決済サービスではなく、ライフスタイルサービスと定義しており、 利用者の日々のお金の接点で貢献できる存在を目指しています。

従来は、下図で示す領域の金融サービスは、業態が分かれ、異なる法規制とアカウントの概念で提供されてきました。 そこでKyashは、利用者の日常に一通り必要なお金の接点をワンストップで提供することで、暮らしに利便をもたらすことを目指しています。

Kyashはライフスタイルサービス

例えば、Kyashが10月から提供を開始した「スポットマネー」も、Kyashのヴィジョンに基づく取り組みの一環です。ユーザーが日常的に抱える「お金が足りない」や「計画的に貯めたい」といった課題に対応する機能として設計されました。KyashのPM、デザイナーそしてエンジニアが体験にこだわって、ヴィジョンに基づく価値観をプロダクト上で表現してくれています。詳しくはこちら。 blog.kyash.co

ヴィジョンはWillドリブン、プロダクトは顧客起点でありたい

これまでヴィジョンについて書いてきました。ヴィジョンは、会社やチームが大切にするベクトル、利用者への働きかけ方。ヴィジョンは、利用者に答えを聞くことが難しい分、自社が何をしたいか、どのような世の中の変化の一部になりたいか、が根幹になります。他方で、その方針を誰に対してどのようなプロダクトを提供するか、というプロダクト戦略は、「マーケットイン」という考え方、つまり具体的なN1ニーズに基づいて設計を進めることが大切だと考えています。プロダクトアウトという概念は必ずしもマイナスな表現ではありませんが、ターゲット顧客やニーズの解像度が低いと誰のためでもないプロダクトが出来上がってしまいます。 冒頭に言及したように、ヴィジョンがあるから良いサービスや事業ができるとは限らないし、逆も然り。良いサービスと事業であっても、ヴィジョンがなければ場当たり的になり、中期的に取り組んでいくものが積み上げになりづらい。自分たちの存在意義を定義した上で、顧客起点で解像度を上げながらプロダクトを開発することがとても大切です。そして組織化が重要なスタートアップのフェーズでは、いかに優秀なチームと共に組織としての学習力を身につけられるかが勝負だと、日々の失敗を通じて痛感しています。

未来への展望

私たちのヴィジョンである「新しいお金の文化を創る」という使命は、これからも変わることはありません。むしろ、これまでの経験から学び、より強固なものへと進化させていきます。

これからのKyashは、さらに多様な金融ニーズに応えるプロダクトを展開しつつ、ユーザー一人ひとりが経済的な豊かさを実感できる世界を作り上げていきます。そして、このヴィジョンを共有するすべてのステークホルダーと共に、新しいお金の文化を育んでいきたいと思っています。

最後に、おかげさまでKyashは年明けで創業から10年になります。Kyashに関わってくださったすべてのメンバーやステークホルダーの皆様に心から感謝しています。とりわけ現在も第一線で奮闘しているKyashメンバー一人ひとりが、ヴィジョンの実現に向けて日々挑戦を重ねてくれていることに、改めて感謝の意を表します。

本年も、Kyashを大変お世話になりました。 これからもKyashをどうぞよろしくお願いいたします。

どうぞ素敵な新年をお迎えください!!

Kyash Visaプリペイドカードって、チャージするのが手間だし、ちょっと面倒じゃない??

Kyash COO の鳥越です*1。これは Kyash Advent Calendar 2024 24日目の記事です。

Kyashはチャージ型クレカ (Visaプリペイドカード) を提供していますが、カード利用する前にチャージするって面倒ですか?

「普通のクレカはチャージしなくても使えるのに、使う前にチャージ残高を確認して残高が足りなかったらいちいちチャージするってちょっと面倒だし不便だなあ〜」といったユーザーの声もあります。一方で、「チャージ型クレカはちっとも手間ではなく、むしろ使い過ぎを防げるから安心」といったユーザーや、そもそもチャージ型クレカによってクレカを普段使いできるようになり、キャッシュレス社会で暮らしていくなかで多くの恩恵を受けているというユーザーも実はたくさんいらっしゃるのです。

Kyashでは、オンライン・オフラインのハイブリット環境で All-hands meeting を毎月開催しています。2024年12月の All-hands meeting で僕が話した内容を少し引用しながら、現在Kyashで進めているブルーオーシャン戦略 (Kyash2.0) の方向性についてここに書いてみます。

*1:id:konifar が代理で公開しています

続きを読む

iOSアプリからKMPで定義したsuspend関数を呼ぶ

これは Kyash Advent Calendar 2024 の22日目の記事です。KyashでiOSアプリを開発している tamadon です。

Kyashのモバイルアプリ開発では KMP(Kotlin Multiplatform) を採用しています。「KMPとはなんぞや?」「KyashでKMPの構成は?」については以下の記事を御覧ください。

AndroidとiOSのエンジニアでKMPの実装をペアプロしている話

この記事で掲載している構成図を紹介します。新規でKMPを使用する画面はこの構成で実装しています。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/r/rmakiyama/20231205/20231205094930.png

KMPの採用を積極的に進めていった結果、既存の画面に機能を追加する際にReactorを作成して画面全体を作り直す程ではないけど、UseCase層まではKMPで実装し処理を共通化したいという要望が上がってきました。

今回はサンプルなのでこういった仮のsuspend関数があると仮定します。

class ExampleUseCase {
    suspend fun exampleFunction() {
        // Do something
    }
}

KMPを採用していない既存の画面は以下のような構成になっています。このViewModelにKMPで実装したUseCaseを追加するイメージです。

こちらをSKIE(スカイ)の機能を利用して実現する方法を紹介します。 SKIEの説明については以下の記事を参照ください。

Kotlin Multiplatform の SKIE (スカイ)を導入して、iOS エンジニアの開発者体験を改善しました。

続きを読む

やさしい金融を作るための非常識な体験設計

この記事は Kyash Advent Calendar 2024 20日目の記事です。

Kyashでプロダクトマネージャー(と貸金業務取扱主任者)をしている Ueda です。

Kyashでは10月にスポットマネーという機能をリリースしました。 www.kyash.co

一般的な言葉で言うと「お金を借りる・貸す」サービスであり、こういった言葉を聞くだけで「うっ」となる方もいるのではないでしょうか。

今回はアドベントカレンダーという機会を通じて、本機能提供を担当した自分から「どういう背景と思いでスポットマネーリリースしたか」そして「Kyashが目指すやさしい金融とそのための非常識な体験設計」について、タイトルの説明もしながら書いてみようかと思います。

続きを読む

なぜKyashのモバイルチームは周りからいいチームだよねと言われるのか

この記事はKyash Advent Calendar 2024の19日目の記事です。

こんにちは。Kyashでモバイルエンジニアをしているkato(@ktc_eng)です。 Kyashのモバイルチームはありがたいことにいいチームだよね、仲が良いよねと社内の方々から評価していただくことが多い印象です。今回この記事ではなぜモバイルチームが社内にそのような印象を与えているのか、その秘訣は何なのかを言葉にしてみたいと思います。この種の記事は書き手がマネージャーであることがほとんどのように思いますが、これをメンバーが語ることで、よりリアルに雰囲気が伝わるといいなと願っています。

半期に一度の目標設定と振り返り

モバイルチームは目標設定と振り返りを半期に一回の頻度で設けています。現在Kyashは事業部制をとっており事業部ごとに目標が存在しますが、それとは別にモバイルチーム単位で独自に目標を設定しています。今年は目標設定も振り返りもメンバーから、やりたいよね、そろそろそういう時期だよねという話が自発的に出てきて実現していたりします。手前味噌ながらすごいことですよね。

続きを読む