やさしい金融を作るための非常識な体験設計

この記事は Kyash Advent Calendar 2024 20日目の記事です。

Kyashでプロダクトマネージャー(と貸金業務取扱主任者)をしている Ueda です。

Kyashでは10月にスポットマネーという機能をリリースしました。 www.kyash.co

一般的な言葉で言うと「お金を借りる・貸す」サービスであり、こういった言葉を聞くだけで「うっ」となる方もいるのではないでしょうか。

今回はアドベントカレンダーという機会を通じて、本機能提供を担当した自分から「どういう背景と思いでスポットマネーリリースしたか」そして「Kyashが目指すやさしい金融とそのための非常識な体験設計」について、タイトルの説明もしながら書いてみようかと思います。

*去年は「開発速度を高めるためのPdMの工夫と気概」と言うタイトルで、少しは皆様の役立つ(かもしれない)記事を書きましたが、今年は抽象的な話の比率がかなり高いのでご了承ください。

blog.kyash.co

スポットマネー提供の背景と思い

背景:Kyashはプロダクトであり事業でもある

当たり前なことですが「Kyashはプロダクトであり事業でもある」ため、良いプロダクトを提供し続けるには事業として成り立っている必要があります。

では事業として成り立つためにはどういう要素が必要になるのでしょうか。

先に結論を述べると、特に個人向けFintech企業を事業として成り立たせるには「決済サービス」だけでなく「金融サービス」の提供が必要になると考えています。

実際に事業として成り立っている金融事業者の例を挙げると、最近営業利益の黒字化を達成したPayPayが良い例ではないでしょうか。
PayPayは3層構造の収益モデルを謳っており、1層目に「決済手数料収入」、2層目に「加盟店向けサービス」、そして3層目に「金融サービス(後払い・消費者ローン)」を挙げています。
また、日本の外を見てもKyashのベンチマークとなるようなチャレンジャーバンク・ネオバンクと呼ばれる企業は、上場・非上場問わず「決済手数料収入」や「サブスクリプション収入」などに加え必ずと言っていいほど「金融サービス(与信領域のプロダクト)による収入」を作っています。

例に漏れずKyashも、事業を成り立たせるために「金融サービス」を提供することを以前から考えていました。
既に提供済みのイマすぐ入金(あと払い)がその一つであり、さらに今年はそれに加えて、スポットマネー(ローン機能)という「金融サービス」を提供することに決めました。

思い:Kyashは事業でありプロダクトでもある

一方で「Kyashは事業でありプロダクトでもある」ため、人びとの発展に資する存在でありたいと考えています。
ただでさえ複雑で誤解を生みやすい金融領域において、事業を成り立たせることを意識するあまり、ユーザーのためにならないプロダクトを作るのであれば、Kyashの存在意義はないのです。

上に記載の通り収益性はもちろん大事ですが、「事業としてのKyash」という視点だけでなく、「プロダクトとしてのKyash」として視点を持ち、両方のバランスを取るというチャレンジに向き合う必要があると思っています。

「Kyashはプロダクトであり事業でもある」という当たり前なことをこれ以上書くつもりはなく、後半は「Kyashは事業であるがプロダクトでもある」という部分に焦点を当て、そのための体験設計について書いていきたいと思います。

Kyashが目指すやさしい金融とそのための非常識な体験設計

Kyashが目指すやさしい金融とは

そもそも「金融」という言葉を使いましたが、この言葉の意味を改めて考えたことはありますでしょうか。
「金融」とはその名の通り「資金を融通すること」をさしており、身近な概念ではありながら、人によっては敬遠されがちな「お金を借りる・貸すこと」を意味しています。

では「お金を借りる・貸すこと」を「やさしくする」とはどういう意味でしょうか。
あえて「やさしい」と平仮名で書いたのは、この言葉が二つの意味を持つからです。 一つは「易しい」であり、もう一つは「優しい」です。

「易しい」は「簡単な」「わかりやすい」という意味を持ちます。
そのため「易しい金融」というと、「仕組みや手続きが単純で理解しやすいか」「初心者でも気軽に利用しやすいか」など、シンプルで理解しやすくなっているかに焦点を当てています。

また、「優しい」は「思いやりがある」「親切である」という意味を持ちます。
そのため「優しい金融」というと、「ユーザーの不安を考慮し安心して利用できるか」「一人ひとりの状況に合わせて不必要な利用を助長しないか」など、ユーザーのために誠意のある設計にできているかに焦点を当てています。

つまりKyashは「お金を融通する(貸す・借りる)」という敬遠されがちなサービスを「誰にとってもわかりやすく、かつ悪意なく」提供することを目指しています。

非常識な体験設計とは

そんなやさしい金融を実現するために、今回のスポットマネーの提供において具体的にどういった体験設計を採用したかをいくつか紹介します。

ちなみにここでいう「常識」は「業界としての常識・通例(その業界の人からすれば当たり前のこと)」をさしており、その意味で「非常識」とは「業界としての常識・通例を逸脱していること」とご理解ください。

非常識な体験設計例

1.借りる直前に利息含めた返済予定額を見せる

業界の常識として「お金を借りる」という最終決定をする時に、ユーザーに迷いが生じるような情報は見せないというのが通例とのことです。
そのため、消費者金融系のサービスを触っていただくとわかるのですが、お金を借りる画面で「具体的にいくら利息が発生するか」などの情報は表示しない傾向があります。

逆にKyashでは、入金(借り入れチャージ)を行う際に、利息を含めて自分がいくら返すことになるかを最後の最後でも理解ができるような設計をしています。

操作がかんたんであることも意識しつつも、何も気にせずお金を借りて後から後悔する人が出ないためにも、「あえてもう一度考えてもらう」ためのセクションを設けました。

2.繰り上げ返済を推奨する

繰り上げ返済とは、返済日の口座引落を待たずして銀行振込等で返済を行うことです。
繰り上げ返済を利用することで、ユーザーは「固定のタイミング・金額」ではなく、「任意のタイミング・金額」で返済を行うことができます。
詳細は割愛しますが、業界の常識的にいうと「繰り上げ返済により早く返済が完了すること」は「利息収入が減ること」を意味しているため、収益の観点では本来避けて欲しい行為です。

しかしKyashでは、スポットマネー機能のTopページにて繰り上げ返済の導線を置き、さらにそのメリットまで説明するようにしました。

「早く返せる余裕があるのなら早く返す手段と利点があることを隠さずに伝えたい」という思いや、「その手段にすぐにアクセスできることを担保したい」という思いから、「あえて前倒しでの返済を推奨する」誘導をTopページに設けました。

「利息(= 事業者の収益)を減らすことができます」なんて言っちゃってますね

非常識な体験を採用するために

やさしい金融を目指すためにこのような体験設計を採用したのですが、パートナーだけでなく社内の業界経験者からも「この設計で本当に良いのか」という意見も出ました。
こういった非常識な設計を正式に採用するための障害はゼロではなかったのです。

ここではそういった「非常識な体験を採用するために役立ったこと」を少しだけ紹介します。

チーム全員で目指したい方向性を合わせる

このプロジェクトを開始した時、最初に行ったことは「僕たちはどういうサービスを誰に提供したいか」を擦り合わせるワークショップでした。

今回提供したスポットマネーという機能は、冒頭に述べたように「事業としてのKyash」と「プロダクトとしてのKyash」のバランスを取ることが特に大事だと考えていました。
そのため、「気が付いたらユーザー視点ではなく事業視点の悪意ある設計になっていた」ということを避けるためにも、出発点である上記の問いに最初に向き合うことにしたのです。

プロダクトデザインメンバー主導で、「どういうサービスにしたいか」というコンセプト設計ワークショップをデザインチームと行い、そして「誰に提供したい、誰が使うのか」というペルソナ作成ワークショップはエンジニアメンバーも一緒に行いました。

コンセプト設計の一部

僕たちの陽太(ようた)

こうしたワークショップを行ったことで、プロダクトマネージャーである自分だけでなく、デザイナーやエンジニアメンバーなど、チーム全員で「僕たちが提供したいサービスになっているか」や「はたして陽太(ようた)はこのサービスを使うのか」というセルフレビューの視点を持ちながら体験設計を進めることができました。

その結果、非常識にも見える体験設計について社内外から声が上がったとしても、出発点の認識が揃っていたことで、チームで協力して説明と推進をすることができました。

ワークショップの効果を表すKeepの声

結局何が言いたかったか

終始くどい説明を繰り返してしまい申し訳ない気持ちでいっぱいですが、おさらいとして言いたいことは以下です。

Kyashは「お金を融通する(貸す・借りる)」という一般的には敬遠されがちなサービスを、「業界の常識から逸脱する体験設計を採用」してでも「誰にとってもわかりやすく、かつ悪意なく」提供していきたいと考えています。

ネガティブな印象がある「お金を融通する(貸す・借りる)」という機能を、「ポジティブな成功体験」として提供できないかということにチャレンジをしていきます。

リリース予定の画面含む非常識な体験設計まとめ

最後に

今回の記事を読んで、「金融」というものに対する理解が深まり、少しでも多くの人に「Kyashは事業のためだけにスポットマネーという機能を提供したわけじゃないんだな」と思っていただければ幸いです。

「送金サービス」としてスタートし、もうすぐ創業10年を迎えるKyashも、「決済サービス」を経て「金融サービス」として飛躍するタイミングが来ました。

自分もやさしい金融体験を一緒に作りたい!という方がいらっしゃれば、ぜひお話ししましょう!
(既存機能や新領域のプロダクト開発も並行で動いているのでそちらに興味ある方も)

herp.careers

そして、そんなやさしい金融体験を意識した僕たちのスポットマネー機能もぜひ触ってみてくださいね!*1

*1:収入と支出のバランスを大切に 無理のない返済計画を