Kyashの資金移動サービスはどのようにして始まったか

この記事は Kyash Advent Calendar 2020 8日目の記事です。

KyashでPdMをやっている荒井です。 Kyashは2017年より前払式支払手段発行者として、送金サービスをスタートしました。 そして、「価値移動のインフラを創る」というミッションの実現に向け、2020年8月に資金移動業の登録を完了。お金の流動性を一つのテーマとして、入金から決済・送金、また出金までの「お金の流れの見える化」を促進、そして直近では支出管理、資金形成まで踏み込んで行こうとしています。

この記事では、KyashがPaymentからBankingへ大きく舵を切った2020年9月7日のサービスアップデートの根底にある考えや、Kyashのプロダクト開発の一端を知っていただけたら嬉しいです。

サブカルではなくメインカルチャーを志向する

創業当時の鷹取のピッチ資料を見ると、モバイルバンキングを当初から視野に入れていることがわかります。

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当時のピッチ資料より引用
金融サービスの特徴として、自社の都合だけで事業を進めることは難しく、法規制等とうまく足並みを揃えなければいけないという点が挙げられます。 また、各種ライセンスの取得には多大な労力と時間がかかるため、数年後に来る(または来るはずと盲信する)「その時」に備えて先回りして動く必要があります。(サーフィンに例えて、波が来た時に沖にいる必要がある、というやつです。)

送金アプリとしてスタートし、ウォレットアプリへと歩みを進め、迎えた2020年。便利でお得な知る人ぞ知るサブカルサービスではなくメインカルチャーを、マスに向けた信頼性のある金融サービス=モバイルバンキングアプリを作る。 そんな共通認識を持って、プロジェクトはスタートしました。

プロジェクトマネジメント

関わるメンバーは約40人、期間にして約半年、並行して5つのプロジェクトが走るという、また同じことをやれと言われたらひるんでしまうような一大プロジェクトは、全社一丸となってリリースにこぎつけました。 いくつかの観点で、うまくいった事と改善点をかいつまんでご紹介します。

スクラム開発の本格導入

to C向けプロダクトチームとして本格的なスクラム開発を初めて導入しました。導入するにあたり、スクラムマスターによる勉強会を毎週開催(勉強会の詳細はKyash Advent Calendar 2020 4日目のこちらの記事で紹介されています)。 スプリントごとにゴールを設定し、開発優先順位を決める。不確実性の高いものから着手し、フィードバックサイクルを早めに回すことで、見通しを立てる。 スクラムマスターによる熱心な支援と、チーム全員のスクラムやるぞという高い意識のおかげで、Kyashにスクラム開発がいよいよ根付いたなと感じています。

今後の改善点としては、製品開発フェーズに入る前(または並行して進める)の「顧客開発」にあると考えています。簡単に言えば、「何を作るか、どう作るかの精度」を上げていく必要がある。ユーザーリサーチに知見のあるデザイナーや、他のメンバーも巻き込んでこの課題に取り組んでいこうと考えています。

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要件定義・設計フェーズの型化についてデザイナーがまとめてくれた図

日々の情報共有と意思決定

日々の質問・相談や情報共有は基本的にはSlackにて行われています。一方で、ストックしておいたほうが良さそうな内容、Slackでは完結が難しい内容については、スクラムイベントであるデイリースタンドアップ用のKibelaにメンバーがトピックを書き込み、毎朝メンバー間で確認するようにしています。 確認し、合意した内容については確定要件Kibelaに転記。参加していないメンバーへはSlackを通じて共有されます。
Kyashのすべてのプロジェクトに導入されている、明日からすぐ真似できるシンプルなtipsです。もし情報共有に課題を感じているPdMの方は参考にしてみてください。

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デイリースタンドアップKibelaのテンプレート

PdM(スクラムにおけるPO)にはあらゆる方面から常に質問が飛んできます。心がけているのは、質問に対して即答できること、そして理由も一緒に伝えること。 そのためには瞬時に判断できるように考えつくしておく必要があります。 もちろん自分が想定できていなかった有難い指摘には感謝し、朝令暮改の判断をすることも。日々鍛錬あるのみです。

改善点としては、徹底していてもどうしてもチーム外への共有が漏れることをどうカバーするか。 プロダクトチームの定例ミーティングやスプリントレビューに参加してもらう、他チーム向けのチェックインミーティングを行うなど、プロジェクトを経るごとに改善を続けています。

リーガル/コンプライアンスチーム

抽象的な表現となってしまいますが、金融サービスは自分たちだけで決められない部分がto Cサービスの中ではダントツで多いと感じています。
リーガル・コンプライアンスチームのメンバーは、既存の法律や慣例の調査はもちろんのこと、時に法律自体の制度設計に関わった社外の方々の意見も伺いながら、会社やプロダクトを支えてくれています。

個人的な考えではありますが、既存のサービスでは解消されることのないお金の不便は、新規プレイヤーによるチャレンジ、それもイノベーションと適法性を併せ持った(時には時代にそぐわない法律を変えてしまうような)チャレンジなしに解消することはありません。彼らのおかげで安心してプロダクト開発を進めることができており、本当に頭が上がりません。

扱う言語や大切にしているものが微妙に異なるため、ちょっと油断すると簡単に分かりにくい要件や表現になってしまいます。(こう書いておけばいいだろうの繰り返しで、文字だらけになってしまうなど。)
しかし、リーガル/コンプライアンスメンバーは各種規制に最前面で向き合い、プロダクトメンバーはユーザーに向き合う。お互い目指しているものは同じという信頼感があるからこそ、しつこいぐらい踏み込んで、時にはぶつかり、ユーザーにとってベストと思えるかたちに落とし込むことができます。

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リーガル/コンプライアンスとのやり取り。悪あがきすることも大事。
改善点としては、最終的にどうにも落とし所が見つからない場合は、最終責任を取れる人を早い段階で巻き込む、これに限るなと学びました。

送金機能の整理

冒頭にも記載した通り、Kyashは送金サービスとしてスタートしましたが、マスに向けた信頼性のある金融サービスを作るという観点において、今まで以上に広範なシーンでの利用、大きなお金の移動を捉えていきたいと考えていました。

資金移動業者となり、送金には本人確認を必須とすることで、残高の出金ができる。言葉にしてしまうと当たり前のように思われるかもしれませんが、ユースケースは圧倒的に広がります。日常的な「送金」だけでなく、まとまった金額の「振込」をKyashを通じて行なっていただけるようになる。

カードからチャージして送金できる。そんな手軽さから友達や会社の同僚との割り勘、イベントの集金といったケースでご利用いただいてきました。しかし、そんな手軽さを維持しようとすると、送るお金または受け取るお金が出金できるのかできないのか分からなかったり、余計なコミュニケーションを生むことに繋がります。

とにかく概念(※)としてシンプルで分かりやすくすることを考え、ワーディング一つにまでこだわり抜き、短期的な利便性ではなく本来どうあるべきかにフォーカスし、Kyashの送金機能は現在のかたちに落ち着きました。 ※概念の整理は1年以上前から始まり、あらゆる観点で議論し尽くしてきました。

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Kyashにおける送金をCEO含めて議論

終わりに

2020年も残すところ4週間を切りましたが、年内にもう一つサービスアップデートを予定しています。2021年もモバイルバンキングアプリとして進化させていくべく仕込みを進めていますが、一緒に作っていく仲間を募集しています。
Kyash採用ページ

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他メンバーのKyash Advent Calendar 2020もぜひご覧ください。